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あいすまん

あいすまん

400字レビュー

●「Material」Aco(音楽)発売日:2001.5.23 価格:3,059円 発売元:Ki/oon Records

 「Acoを読んでみると」
 メロディーに惹かれた曲は特にないが、音使いが興味深いのが「メランコリア」「貴方に捧ぐうた」「星ノクズdub version」。素材選びの面白さと、選んだ素材の使い方の面白さ。曲というよりも音として、選択された結果の組み合わせとしての楽曲の形態にAcoの美意識が垣間見える。声さえ音のように対象化されている。さらに詞世界に惹かれたのが<痛みには全て価値があると、知った様に偉そうに/今度から貴方がそんな口を聞かない様にしてあげる。>「メランコリア」や<空の絵はもう二度と描かないよ。><貴方の作った素敵な話で/できるだけながく騙していて>「Time」など。言葉は、それを紡ぐ人間の「かたち」を最もわかりやすく表す。だからその人間の個性も程度も、無自覚的に出てしまうという諸刃の剣。だからミュージシャンが自分の頭で考えて詞を書いてるか、それとも同ジャンルの先輩の様式を借りてるだけの阿呆かというのは、詞を読めば一目瞭然である。Acoの詞には独自の世界観を感じるが、多少くどいので反復を多用してもいいからもう少し削ってもらえれば、音使いの巧さとの齟齬感が解消できるのでは。

 宮城隆尋・2002・『あいすまん』3

●「アンチクライスト・スーパースター」 マリリン・マンソン (音楽)

 「Fuck it!」の絶叫で始まるこのアルバムはもはや言い訳のしようがないほど毒であり、暴力であり頽廃である。ライブでケツを出しゲロを吐き、小便から大便まで、ぶちまけるのは汚物に限れば何でもありで、不快感や嫌悪感を通り越した末の破壊のカタルシスが得られる。自らの体を切り刻み星条旗でケツを拭き、キリスト教に対して憎悪をぶつけるマリリン・マンソン。偶像崇拝に対するアンチテーゼであり、同時に偶像でもあるアンチクライスト・スーパースター。必要以上に小ギレイにまとまったもの見てるとたまらなくブチ壊してやりたくなる気持ちはわからんでもないし(偽善だしね)見てても楽しいではある。でも俺にとってキリスト教は眼中にないのであり、マリリン・マンソンはノリが良くてカッコイイからよし。マジで。結論として俺がいちばん言いたいことは一つであり、それは即ちたのむからマリマンと略すのはやめてくれということである。   

 宮城隆尋・1999・『Amp!』Vol.1

●グーニーズ(1985/米) (映画) 監督 リチャード・ドナー 脚本 クリス・コロンバス 原作 スティーブン・スピルバーグ 出演 ショーン・アスティン / ジョシュ・ブローリン / ジェフ・B・コーエンほか  【あらすじ】屋根裏で海賊ウィリーの隠した財宝のありかが記された地図を見つけた好奇心旺盛ないたずら好きの少年グループ「グーニーズ」が海賊の財宝を求め繰り広げる大冒険。

 「フラテリ一家」        
 グーニーズが昨今ありがちな、分類上ホラーじゃないくせに血みどろの惨劇映画、というふうにならない要因は、フラテリ一家にある。拳銃を撃ったり人を殺したりしても物語の焦点が残酷描写に移ってしまわないのは、スロースに代表される、フラテリ一家の素朴な感情を失わない人間的な面に支えられている。例えば終盤の、スロースに縛り上げられた兄二人を母親が助ける場面。「ゆっくり下ろせ」と言われてるのに母親は縄を剣で断ち切り、落下する二人を見て「OH MY GOD!」と叫んだり、落下した二人は無事を確認し合ったうえで兄弟喧嘩を再開するといった様子。スロースはスロースで、チャンクにもらったチョコを半分こにしたりと愛らしい。わたしは幼い頃観た際は、顔が恐ろしいだけにスロースが何をしても気持ち悪くてしようがなかったのだが。                   

 『あいすまん』3 2002.10.1

●老人Z(映画)公開:1991年 製作:ムービック他 監督:北久保弘之 原作・脚本・メカニックデザイン・題字:大友克洋 キャラクター原案:江口寿史 出演:横山智佐、小川真司、松村彦次郎他 作画監督:飯田史雄  美術監督:佐々木洋 撮影監督:岡崎秀夫  音楽:板倉文 時間:80分
 
 「ミスキャスト」    
 晴子さん役の声の出演、横山智佐はどうかと思う。この声優の魅力はかすれ声にあると思うのだが、こうドタバタした展開でいちいちキャーキャーかすれられても、その場面はそんなに驚かなくてもいいのでは?と思うこともしばしば。「サクラ大戦」の真宮寺さくらのようにあまりテンションの上がらない、上がっても低い声(戦闘場面の凛々しい感じの声など)のキャラクターや「天地無用」の沙々美のように常時高い声のキャラクターなどはハマリ役であると思うのであり、実際それらを演じることで名をあげた声優でもあると思うので、この場合はミスキャストと言ってもいいのではないかとわたしは思う。本題の作品についてのレビューだが、非常に社会性があって面白い。老人介護における行き過ぎの部分が笑いを誘うのだが、同時にリアリティも持っていて恐怖をも感じる。合理性の追求が人権を脅かすという、科学の発展を考えるうえでは避けて通れない問題にきちんと対峙しているのが好印象。        7

 『あいすまん』3 2002.10.1

●『人間失格』太宰 治(本)発行所:新潮社 発効日:昭和27年10月30日 166ページ  価格:320

 「太宰はスゴイが模倣はウザイ」 
 「恥の多い生涯を送ってきました。」や「ただ、いっさいは過ぎてゆきます。」などに表される太宰的感傷は、膨大な数の雨後の筍たちに使い回されて最早完全に空洞化されており、素直に良いと思えない。しかし無力感にとらわれながら酒や女に溺れ、薬に頼って辿り着くのが諦念、という不細工な結論こそ、人間の本質的な無為性を描いたという点で優れていると思うのである。しかし、これはやったもん勝ちの特許を太宰が獲得したということと同義であり、世に夥しく出回っている太宰的感傷モロ出しのモラトリアム自慢は最早小説とは言えないと思うのであり、そういうものを同人誌や学生誌やミニコミなどで読んでしまうと、時間と労力の著しい無駄遣いなのであって、金払え。今後太宰もどきの方々は、わたしが間違えて読んでしまわないよう前以て作品冒頭に「わたしは太宰のエピゴーネンです」と明記しておいて欲しい。皆に真似される太宰は確かに凄いのだろうが、そういう安易な感傷の垂れ流しと小説との境界を曖昧にしたという意味では、もの凄く罪深い作家なのではないだろうか。                    4

 『あいすまん』3 2002.10.1

●『ピアニシモ』(本)発行所:集英社 著者:辻 仁成

 「未成年のみ若さ肯定許可」
 崩壊寸前の家庭に育った主人公は、友達ができないからとインナーチャイルドを作り出す。現実と対峙せず、斜に構えたヒカルの言動に流されて痛い目をみる。伝言ダイヤルで知り合ったサキに会えなかったからと、公衆電話の受話器を破壊しコードを引きちぎる。土砂降りの雨の中で絶叫し、野良犬を殴打して地面に転がる。非常に青臭いこの小説のクライマックスにわたしはカタルシスを感じずにはいられなかった。現実との距離感を模索した結果、全てを投げ出し、遣り場のない激情を暴力で吐き出す。元も子もない結論だが、その姿は少年時代にだけ許される特権であり、真摯に生に向き合う人間の姿がひとつの例としてリアリティーを持って描かれている。現実には昨今の少年の行動はそれ以上に過激なものが多いが、その本質をとらえていれば時流を追って過激にならなくてもカタルシスを喚起しうるという良い見本になっていると思う。それだけでこの作品自体はいいと思うのだが、昨今の世の中にはそういう激情を大人になってから暴発させるバカが増えてきているため、そういうバカにはこのような若さを肯定する作品を読ませてはいけないとも思う。 7

 『あいすまん』3 2002.10.1

●黒 奥浩哉短編集 2 著者 奥浩哉(マンガ)発行所 集英社 発行日1999年5月 価格: 648円

 「見えない者にしか見えない物」 
 中でも「黒」が出色の出来。通常の奥浩哉作品のトーンを多用した柔らかめの絵柄とは違い、トーン抑え目でベタを多用した陰影の濃いタッチにただならぬ雰囲気が漂う突然変異級の異色作。主人公は神の使いに「100人の命を救えば罪は清算される」と告げられ、身の回りに事件や事故が集められ、驚異的な身体能力と化け物のように醜く、そして死ねない体を授かる。妻には浮気され、最愛の息子に刺され、あまりに不条理な境遇に反発する主人公だが、盲目の少年永田勇を交通事故から救ってから物語は急展開する。強盗強姦誘拐殺人と悪事の限りを尽くす桑田兄弟との格闘の中で、勇を助けようとしている主人公をその祖父である精三が「わたしを脅かすな」と撃ったり、警察も彼に対し無数の銃弾を浴びせる。その中で目の見えない勇だけが他の人物とは違い「おっちゃん」と主人公を慕い、傍から離れようとしないところに、「見えない者にしか見えていないもの」が描かれていると思うのであり、示唆深い。              8

 『あいすまん』3 2002.10.1


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